2006年08月20日

角川文庫 「800」 川島誠

激しく久しぶりの書評です。
800.jpg

私が師匠と心の中で崇める作家「川島誠」さんの作品。今作品は映画化されたこともある、ヒット作の一つです。

――あらすじ――

なぜ八〇〇メートルを始めたのかって訊かれたなら、雨上がりの日の芝生の匂いのせいだ、って答えるぜ。思い込んだら一直線、がむしゃらに突進する中沢と、何事も緻密に計算して理性的な行動をする広瀬。まったく対照的なふたりのTWO LAP RUNNERSが走って、競い合って、そして恋をする―。青空とトラック、汗と風、セックスと恋、すべての要素がひとつにまじりあった、型破りにエネルギッシュなノンストップ青春小説。


さて、今日もまた、くどくどと私独自の見解を述べていきたいなと思います。久々なので、しっかり話せるか不安ですけど。

この作品は、独特的である。
今まで、多くの純文学などの作品を読んできた人が読んだら、必ずそう思うであろう。いや、きっとライトノベルや、言ってしまうと官能小説、とりあえず何でもいいから小説を読んできた人には絶対に独特的だ、と思ってしまう。
こんなに、口語的で、情景描写がそれほど多くない作品は珍しい。
独特的な語り口。中沢と広瀬の二人の主人公が交互に語る一人称。ハッキリ言って、二人は性格も境遇も何もかもが違う。ただ、唯一共通していることは「TWO LAP RUNNER」、つまり800メートルの競技者であることだけだ。
そんな彼らが、800メートルと出会い、そして高校一年の秋の新人戦までを描いている。
期間的には、他の小説と比べ結構長い。一年くらいの期間を描いているからだ。しかし、作品の濃さは絶対にトップレベルのものだと思う。
とりあえず、これから細かい内容について、話していきたいと思う。

この作品は、分かりやすい。何故なら、砕けた口語表現のみで構成されているからだ。
つまるところ、主人公が心の中で思ったこと、また口で言ったことをそのまま文としてまとめているだけなのである。描写の付け加えや、主人公以外の心理描写、そんな著者の介入は一切ない。
だからだろうか、ものすごく共感できる点が多い。いや、共感させられていると言ってもいい。
引きづり込まれるのだ、作品の中へ。
気が付けば、隣に登場人物がいるような錯覚。無理のない設定。そして、まさに今の「若者」といったようなキャラクター。それらが、作品の世界と現実の世界との垣根を限りなくゼロに近づけることに成功したのである。

読者との一体感を味わえる。そんな作品の「800」だが、専門的な用語も数多く出る。陸上競技に関する記述は実に濃厚で、事前取材の緻密さを伺うことができる。
どうしても、スポーツ小説というものは安っぽくなりがちなのだ。特に筆者自身が興味を持った小説を衝動的に書いた、なんて作品は最低である。近年、そのような作品は小説のみならず、特に漫画に多く見られるが、この「800」にはそんなことはない。リアリティ溢れる競技場の描写。ランナー達の微妙な駆け引き。心理戦。これを読むだけで、800メートルという競技がある程度分かるのだ。

残念ながら現在、私としてはこの「800」並みにインパクトのある作品を、筆者である川島誠は書けていないのではないかと思う。およそ四年ぶりの書き下ろし長編である「NR(ノーリターン)」は四年ぶりのくせして今までの中では一番インパクトに欠ける作品に感じられた。
「800」並みのインパクトある作品を再び読みたいと思う次第だ。


posted by ヘボラマン at 01:06| Comment(6) | TrackBack(1) | 小説レビュー 角川文庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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