2007年04月28日

web小説 Season 〜Chapter01-春〜 フミツキマサヒト

久々の小説レビュー。どーも、ヘボラマンです。

さて、本日レビューする小説は相互リンクサイトAqua Rainbowのフミツキマサヒトさんの作品「Season 〜Chapter01-春〜」を紹介します。

――あらすじ――
岸部統也と涼倉春菜は幼なじみ。
 二人はクラスの仲間たちを交えつつ、面白おかしく日々を過ごしていた。
 いつまでも続いてほしいと願ったこの心地よい関係は、しかし時とともにゆっくりと変わっていくのだった……。

さて、「Aqua Rainbow」の主力作品であり、全四部作の「season」シリーズの第一部「Season 〜Chapter01-春〜」。実はこの私、第一部第一話が連載されていたときからずっと読ませてもらっているファンの一人だったりします。ええ。こうして、マサヒトさんから書評依頼が来たときには、嬉しさのあまり小一時間小躍りしてました。
まぁ、うだうだな前置きはいいとして、今回紹介する「Season 〜Chapter01-春〜」は全五話構成の中編の作品です。ジャンルとしては学園もの+幼馴染み。といった具合でしょうか。幼馴染み同士である岸部統也と涼倉春菜がお互いの気持ちに気づき、恋人同士に変わっていくというストーリーです。
では、これから細かいところを見ていきましょう。

この作品を読んでいて、一番に感じたことはものすごく構成に凝っているなぁ、ということでした。
基本的に、中編くらいの作品となると、先の展望をしっかりもち、さらに回収しやすく興味を持たせられる伏線を張ることが大切になります。
本作品は起承転結がきっちりと構築されており、登場するキャラクターの数も無理がなく、かつ個々人がいい具合の性格、特性を持っていたと思います。
特に、主人公岸辺統也たち仲良し四人組のメンバーが実に濃い。統也と春菜のそれぞれの親友、杉沢健二、藤河りのは大変いいキャラだと思います。少しばかり、主役である幼馴染み二人のキャラが薄いなぁと感じていたのですが、その分この二人はかなりキてました。何度、この二人が絡む掛け合いに噴き出したことか。


「お前のせいで俺まで補習だぞ!? どうしてくれる!?」
 ツバが飛びそうなくらいの口調でまくし立てるが、統也は既に諦めきった顔で答える。
「お前だって居眠りしてたんだから当然だろ?」
 至極真面目な意見だが、健二は納得しない。
「いや! 俺は悪くない! お前だ! お前が全ての元凶だ! というわけでお前で決定だ!」
「何とでも言えばいいけどさ、もう俺らの死期は決まっちまったんだぜ? 一緒に黄泉路逝こう」
「いやだぁ! 俺はまだ逝きたくねぇ! 俺は逃げるぞ!」
「でも逃げたら、間違いなく処刑でありますよ?」
 りのの返答に健二は思わず絶句する。もちろん彼女が言った『処刑』とはあくまで冗談だが、あの森高女史ならやりかねないと、この場にいる四人は思った。
「あ〜ぁ。ついてねぇな」
 ついに健二も観念し、カツカレーに手をつける。
「二人とも……。災難だね」
 春菜は心配そうに二人を見やる。
「まぁ……。こんな日もあるさ」
「これが最後の晩餐になるかもな……」
「杉沢君、どうせ言うなら最後の昼餐じゃない?」
 春菜が訂正するが、既に死期を悟った二人の耳には届かない。
「ハルちゃん……。せめて二人が無事天に召されるようにお祈りするであります」
「いや……。本当に死ぬわけじゃないんだからそれは……」
「岸部君、杉沢君! りのたんは今日というこの日に二人に会えたことを、決して忘れないであります!」
『藤河!』
 りのの言葉に感極まった二人は、りのの手を取る。
(ど……どうしよう……?)
 春菜だけはどうしていいかわからず、泣きながら手を取り合う三人を呆然と見ていた。


また、全体的に台詞主体の作品だったのですが、その台詞のやりとりに違和感がなく、テンポが良かったので、全体のバランスが損なわれず、コミカルで愉快な作品に仕上がっていました。まぁ、そうでなければ私がファンになるわけないのですが^^;
凝っていたり、難しい表現などはありませんが、その分愉快な掛け合いに、ふっと肩の力を抜いて読むことが出来ます。流石、ラノベ風小説と謳っているだけあって、気軽に読めるまさに"ライト"な作品になっていました。
伏線も実際にそんなあからさまなものはなかったのですが、読み終わったあとに「えっと、これ、結局何だったの?」と思わせるようなものもなく、読者に謎を残したり、引っかかりを残したりすることはなかったと思います。最後の場面も、きれいにまとめられていて良かったかと。


ここで、少しだけ気になった点を。
起承転結をしっかりと踏襲し、整った構成であったのですが、少しばかり後半部分、特に第四話、第五話に焦りが見られました。実際に連載中、四話五話を執筆してる際、ものすごく完結を焦っているようなコメントもありましたので、きっとそれが影響していると思うのですが、とりあえず、四/五話の部分がだいぶ勇み足になっており、読者に少し置いてけぼりをくらわせるような形になっているような気がしました。導入部分が大変良かったので、後半の焦りは結構残念なものでした。もし、この作品が全五話ではなく、全八話ほどであったなら、全体的にバランスよい作品であったかもしれませんね。

魔法も、戦闘も、さらには超常現象もなーんにも出てこない普通の学園ストーリー。だからこそ、意外と楽しく読める。何となく、親近感を持つことが出来る。
作者の目指す「ライトノベル風味の小説」というものはしっかりと実現されていると思います。
私としては、とても楽しんで、力を抜いて読める作品でした。
現実味のあるライトノベル。いいじゃないですか。とっても。
読み終わったあと、温かな気持ちに満たされる。こう、締めくくって、今回の書評は終わりたいと思います。

掲載サイト Aqua Rainbow
掲載ページ Season 〜Chapter01-春〜
作者    フミツキマサヒト


posted by ヘボラマン at 15:39| Comment(27) | TrackBack(5) | 小説レビュー 角川文庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月20日

角川文庫 「800」 川島誠

激しく久しぶりの書評です。
800.jpg

私が師匠と心の中で崇める作家「川島誠」さんの作品。今作品は映画化されたこともある、ヒット作の一つです。

――あらすじ――

なぜ八〇〇メートルを始めたのかって訊かれたなら、雨上がりの日の芝生の匂いのせいだ、って答えるぜ。思い込んだら一直線、がむしゃらに突進する中沢と、何事も緻密に計算して理性的な行動をする広瀬。まったく対照的なふたりのTWO LAP RUNNERSが走って、競い合って、そして恋をする―。青空とトラック、汗と風、セックスと恋、すべての要素がひとつにまじりあった、型破りにエネルギッシュなノンストップ青春小説。


さて、今日もまた、くどくどと私独自の見解を述べていきたいなと思います。久々なので、しっかり話せるか不安ですけど。

この作品は、独特的である。
今まで、多くの純文学などの作品を読んできた人が読んだら、必ずそう思うであろう。いや、きっとライトノベルや、言ってしまうと官能小説、とりあえず何でもいいから小説を読んできた人には絶対に独特的だ、と思ってしまう。
こんなに、口語的で、情景描写がそれほど多くない作品は珍しい。
独特的な語り口。中沢と広瀬の二人の主人公が交互に語る一人称。ハッキリ言って、二人は性格も境遇も何もかもが違う。ただ、唯一共通していることは「TWO LAP RUNNER」、つまり800メートルの競技者であることだけだ。
そんな彼らが、800メートルと出会い、そして高校一年の秋の新人戦までを描いている。
期間的には、他の小説と比べ結構長い。一年くらいの期間を描いているからだ。しかし、作品の濃さは絶対にトップレベルのものだと思う。
とりあえず、これから細かい内容について、話していきたいと思う。

この作品は、分かりやすい。何故なら、砕けた口語表現のみで構成されているからだ。
つまるところ、主人公が心の中で思ったこと、また口で言ったことをそのまま文としてまとめているだけなのである。描写の付け加えや、主人公以外の心理描写、そんな著者の介入は一切ない。
だからだろうか、ものすごく共感できる点が多い。いや、共感させられていると言ってもいい。
引きづり込まれるのだ、作品の中へ。
気が付けば、隣に登場人物がいるような錯覚。無理のない設定。そして、まさに今の「若者」といったようなキャラクター。それらが、作品の世界と現実の世界との垣根を限りなくゼロに近づけることに成功したのである。

読者との一体感を味わえる。そんな作品の「800」だが、専門的な用語も数多く出る。陸上競技に関する記述は実に濃厚で、事前取材の緻密さを伺うことができる。
どうしても、スポーツ小説というものは安っぽくなりがちなのだ。特に筆者自身が興味を持った小説を衝動的に書いた、なんて作品は最低である。近年、そのような作品は小説のみならず、特に漫画に多く見られるが、この「800」にはそんなことはない。リアリティ溢れる競技場の描写。ランナー達の微妙な駆け引き。心理戦。これを読むだけで、800メートルという競技がある程度分かるのだ。

残念ながら現在、私としてはこの「800」並みにインパクトのある作品を、筆者である川島誠は書けていないのではないかと思う。およそ四年ぶりの書き下ろし長編である「NR(ノーリターン)」は四年ぶりのくせして今までの中では一番インパクトに欠ける作品に感じられた。
「800」並みのインパクトある作品を再び読みたいと思う次第だ。
posted by ヘボラマン at 01:06| Comment(6) | TrackBack(1) | 小説レビュー 角川文庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月29日

角川文庫 「NHKにようこそ!」 滝本竜彦

では、書評1発目いっきまーす!
NHK.jpg

まずは、私が尊敬する作家の一人、滝本竜彦氏の『NHKにようこそ!』
作者は「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」で第5回角川学園小説大賞特別賞を受賞しデビュー。コレが2作目。

―――あらすじ―――
自分のひきこもりの原因にはある陰謀が絡んでいると信じ込んだ佐藤達広。彼はその陰謀に対峙することを決意する。そんな達広の前に現れたのは、日傘を差した清楚な美少女だった。彼女はなぜが、達広につきまとい始めて…。


これは本当に俺独自の見解なので文句はつけないように。かなり偉そうですがそこは大目に見てください。

この作品。俺は読んでいて真っ先に思ったことは「興味深い」ということだ。
まず、この作品のテーマの着眼点。
「引きこもり」というのはあまりパッとしないテーマだ。しかし、今や一種の社会現象とでもいえる「引きこもり」時代の流れを一早く取り込んでいると思える。
現に、引きこもり小説などという物を書いている作家などいない。いるわけがない。
しかし、彼はその引きこもりをテーマとして扱っている。
これは実に斬新で奇抜なアイディアだと俺は思う。だからこそ、この作品は独特な良さが出ていると思う。

更に、滝本竜彦の言い回しが実に巧みだ。
地味な「引きこもり」というテーマをどうやって派手に目立たすか。
その目立たす為の脇役として、「山崎」というキャラが出てきたのだと思う。
「山崎」は、引きこもりにありがちなヲタクだ。そのヲタクっぷりを全面に押し出している。そして、「佐藤」がそれに染まっていく。
実にシンプルだが、その染まりきるまでの「佐藤」の反応が実に初々しい。きっと、現に存在するヲタクたちも最初はそうだったのだろう。
最初の内は否定しながらも、なかなか手放すことができない。そして、いつの間にか「山崎」のように染まりきっている。
まさに、ヲタクができるまでを見ているようだ。

さらに流石青春文学。ちゃんとしたヒロインまでも出てきている。
それが謎の美少女「中原岬」
このキャラクターは背景に虐待という過去を持つ。
これもまた、現代の社会問題である。
その虐待の過去に苦しみ、自分を見下し。自分より駄目な人間を探す。これは自分を安心させるため、現に今の社会の人たちもこのような傾向があると思える。
そして彼女は、「自殺」という手段に出る。今日、自殺もまた社会問題となっている。彼女は、あまりにも自分のことを駄目と思いこみ、そして自分より駄目な「佐藤」という人物に、拒絶されてしまったことに絶望したのだろう。
自分はもう駄目だ。まさに、現代の人たちが思うようなことを思い、自殺しようとする。

他に、この作品には大きな魅力がある。それが著者の「滝本竜彦」の経験である。
彼は大学を中退し、引きこもりのような生活を送っていた。
実際、そのおかげでこの作品の舞台は明確に確立され、かなりリアルに描かれている。
あまりにもリアルでなければ呆れるだけだし、逆にリアルすぎてもおもしろくない。
彼の作品は自らの経験を元にちょうどよい辺りで書かれているのだ。
故に、この作品を一言でまとめるとすると、この作品は今の社会問題を色濃く反映させ、自らの経験も交えた、コミカルな作品といえよう。

では、失礼しまーす。
posted by ヘボラマン at 22:14| Comment(0) | 小説レビュー 角川文庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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